呼び捨て

幼稚園から小学六年生まで八年間剣道をやっていた。

兄がやっていたという理由だけでなんとなく始めたものであったが、夏はサウナのように暑く冬は道場の床が氷のように冷たく、防具のせいで好きなタイミングでの水分補給もできず、飽き性というのも相まってすぐにやめたくなった。

しかし、親は一度始めたものはやめるべきではないという教育方針であったので、稽古や練習試合、大会のためにおおよそ週四日をやりたくもない剣道に捧げていた。

道場に通っていて楽しかったことを思い返そうとしても、バーベキュー、忘年会、稽古初めの餅つきやぜんざいのふるまい、と食べ物のことしか思い出せない。

いくらか友人はできたが、今でも付き合いのある人間は一人もいない。

 

まだ歳が近い道場生があまりいなかった頃、一つ歳上の男子三人組が道場にやってきた。その中の一人をカミカワ君といった。

小学生だったということもあり、私達はすぐに仲良くなった。

ミカワ君はみんなから「カミカワ」と呼ばれていた。私も周囲に倣ってカミカワ君のことを「カミカワ」と呼んでいた。

ところがある日、親と兄がいる前でカミカワ君のことを「カミカワ」と呼ぶと、猛烈に怒られた。

歳上には敬意を払うべきであり、道場で一番歳下のお前が他の人を呼び捨てにするのはおかしい、という指摘であったように思う。

当時はカミカワ君に敬意を払ったとか払っていないとか、そんなことは全く考えていなかった。ただ、親しみを込めて周囲が使っていた呼び方を真似ただけだった。

道場生の一人で一つ歳上のリカちゃんのことをみんなが「リカちゃん」と呼んでいて、それに倣っていたのと同じように「カミカワ」と呼んでいただけのつもりだった。

 

今現在、周囲に浪人や留年を複数経験している人間の方が多く数歳程度の差を気にせず互いを呼び捨てし合っている状況に身を置いていることを考えると、あのときの指摘は正しかったのかとふと考えてしまうことがある。